山道のどこか
困った。
離島の山道。
タイヤがパンクし、空気入れは壊れている。
辺りには建物はおろか街灯すらない。
ライトの電池はじきに切れるだろう。
防寒着は神戸に置いてきてしまった。
大ピンチである。
宿までたぶん10kmくらい。
クリートシューズで歩ける距離じゃない。
ホイールだけで10km走るか。
福田港まで押し歩いて戻る手も。
うーん、どうしよう。
時間だけが過ぎていく。
スマホを見る。20時近く。
……あれ、電波入ってんじゃん。
まじか楽天モバイル。
ららぽーとですら圏外だったから離島の山で電波入る訳がないと思ってた。
とりあえず宿に電話。
チェックインまでに着けない旨を伝える。
「だったら迎えに行こうか?」
超お願いします!
広げた荷物を慌てて片付ける。
20分後、白いバン登場。
自転車を積み込み出発。
ピンチ脱出。
普段ネットカフェや簡易宿泊施設の利用が多いため宿泊先に助けてもらうという選択肢が抜け落ちていた。(ブルベも自力救済だしね)
いつもの施設に泊まる気でいたら誰の助けも得られず、まだ立ち往生していたことだろう。
旅館を予約していて本当によかった。
車窓の景色を眺める。
走れども走れども建物がない。
「この辺りは採石場だから何もないよー」
大将が笑いながら言う。
自力で解決しようとしなくて本当によかった。
車で揺られること20分、旅館到着。
待ち時間も走行時間も20分。
てことは電話切ってすぐに出発してくれたのか。
何も言わない大将に心遣いを感じた。
旅館
施設全体に昭和の香り。
半透明のシルエットに文字浮かせたらかまいたちの夜とか始まりそう。
今日の宿泊客は自分だけらしい。
部屋の鍵を渡されたが掛ける必要ないかも。
「お客さんが出たら風呂を掃除します」
女将さんがいう。
それはもはや急かされたと同義。
急いで風呂に向かう。
最高のお湯加減。
長湯したいが大将たちの仕事を遅らせたくない。
ほどほどに浸かって風呂を出た。
廊下は暖房がないため部屋までダッシュ。
風呂の後は弁当と酒で晩酌。
旅飯とは思えないラインナップ。
檸檬堂うまいよね。
酒を飲んだらブルベと今日の疲れが一気に噴出。
抗う術もなく布団に倒れ込む。
3本目のビールを飲むことはできなかった。
(つづく)