パンクしていたのは大学生だった。
タイヤはチューブラー。
シーラントでは穴は塞ぎきれなかったらしい。
ボトルホルダーに鼻セレブが挿さってる……
ダメ元で穴を絶縁テープで塞ぐ。
その後、空気を充填。
8気圧ほど入れたがじきに抜けるだろう。
空気がある内に宿泊先に行くよう伝えて別れた。
……かったのだが。
なぜか雑談を始めた。
全然立ち去ろうとしない。
いやいや。
就活中とか。連絡先とか。
タトゥーっぽいインナー着てる理由とか。
どうでもいいから。
早くしないと空気抜けちゃうから。
俺も行きたい場所あるから。
さっさと行かせてくれ。
結局、雑談は終わらず空気は半分くらい抜けた。
ばかたれぇ。
尻キックしたい気持ちをグッと堪えて最充填。
早く宿行ってと伝えて学生と別れた。
新日本海フェリー乗り場に到着。
これにて北海道一周の旅、完結。
ドタバタで感傷的な気分は吹っ飛んだ。
でも自己満足より人助けの方が大事。
優先順位は間違わない。
さて、北海道一周は終わったが旅はもう少し続く。
今日の目的地は手稲。
まだ30km弱あるので先を急ぐ。
小樽の市街地を抜けて少しヒルクライム。
きつくはないが車がかっ飛ばして怖い。
朝里、銭函を抜けて手稲イン。
辺りはすっかり真っ暗だ。
……ただちょっと暗すぎる。なんか変。
端とはいえ手稲も札幌。
こんなに暗いもんかね。
少し考えて気づく。まん防か。
地方ばかり走っていたので忘れていた。
北海道も一部地域にまん防が出ている。
ということは……
もうじき飯屋が一斉に閉まる!
慌てて前方のみよしのに駆け込んだ。
ラストオーダー1分前。
危なかった……。
食後はいつも通り風呂屋へ。
汗を流して疲れを癒す。
その後はネットカフェに移動。
最後の宿がネットカフェとは何とも味気ない。
が、どうせおっさんの一人旅。
目を閉じて開けて出ていくだけ。
屋根と床さえあればいい。
10日目
最終日。
移動距離は少ないのでゆっくり準備する。
コンビニで朝食を済ませて走行開始。
国道337号から国道231号へ。
2019年に走った道で石狩へ向かう。
長い坂を越えて祖父母の墓、到着。
サイクルウェアでごめんね。
謝りながら掃除する。
暑かったので水は多めにかけた。
これ予定は全て終了。
あとは愛知に帰るだけ。
長い坂を再び上って札幌に戻る。
さらに南下。
途中のみよしのでラスト餃子。
今回の旅は餃子ばかり食ってるな……。
恵庭を越えて千歳イン。
自衛隊前を左折する。
南千歳駅前を通って最後の直線へ。
トンネルをくぐって新千歳空港、到着!
走行距離は合計1335km。
過去最長。
長い道南の旅が終わった。
自転車を降りて入り口前に移動する。
荷物をおろして輪行準備を開始。
警備員が見に来たけど気にしない。
カウンターに荷物を預ける。
お次は風呂で汗を流して着替え。
ダラダラしてたら時間が結構パツパツに。
慌ててラーメン道場にダッシュ。
弟子屈ラーメンの席が空いたので滑り込む。
味噌うっま。
大盛りにしときゃよかった。
食後はお土産コーナーへ。
職場用の菓子をいくつか買った。
そうこうしている内にタイムアップ。
保安検査を済ませて搭乗口前で待機。
座席に座ってテレビを眺める。
愛知の雨は止んだようで一安心。
ほどなくして搭乗が始まった。
座席は最後尾なので真っ先に乗り込む。
復路は窓際の席を予約した。
おっさんでも夜景は楽しみだ。
シートベルトをはめて窓の外を眺める。
席に座ったらなんだかどっと疲れが出た。
無事に旅を終えた安心感だろうか。
発進。離陸。
北海道が遠ざかっていく。
2年目のコロナ禍。
社会は相変わらず混乱したまま。
でも人は少し変わってしまった。
昨年まばらだった座席も今年は満席だ。
もう明かりはほとんど見えない。
次に来るときはどうなっているだろう。
できれば全便が満席でマスクのない世の中になっていてほしい。
3年前までは普通だった光景を途方もない夢のように感じながら、気がつけば眠りに落ちた。
(おわり)
愛知に帰るまで気づかなかった。タイヤぼろぼろ