デブとブルベとロングライド

デブが走ったブルベとロングライドの記録

BRM503中部1000kmのこと-3

PC4


「間に合った……」


クローズ時間13分前。

初日の半分しか走っていないが、疲れは同じかそれ以上。
眠気に足を引っ張られたうえシンプルに峠越えがきつかった。

PCでは最低限の補給にとどめ、近所の快活クラブに移動する。

入店。洗濯。充電。シャワー。晩飯。
必要な作業をテキパキこなす。
一通り作業を終えたので就寝。
やっとゆっくり寝られる。
……そう思ったら。

「お客様、いびきがちょっと......」

店員にたたき起こされた。

自分は睡眠時無呼吸症候群
医療器具をつけずに寝るとイビキが爆音になる。
以前も山形でイビキを理由に退店になった。

今回はイビキ対策で仰向けにならない椅子席にしたのだが、無駄な努力に終わったようだ。
(鍵付き個室はそもそも満室だった)

以降、また注意されるのが怖くて寝られず。
自分に非があるため仕方ない。
寝られないなら長居は無用。
快活クラブを引き払ってリスタートすることにした。

夜明け直後の倉敷の海辺を走る。
朝霧なのか、寝ぼけているのか。
景色がぼんやりとしている。
それでも市街地はまだマシ。
街を抜けると猛烈な睡魔に襲われた。
そりゃそうだ、寝てないんだもの。

眠気を必死にこらえながら走る。
が、視界が一瞬真っ暗に。
次の瞬間、交差点の真ん中にいた。
(早朝で助かった……)

あまりにもアウト。危険。
コンビニの外で少し寝た。

その後は走って、寝ての繰り返し。
どこをどう走ったもおぼつかないレベル。


なんとか峠を越えて兵庫イン。
が、通過チェックに到着する頃には、時間はいよいよピンチとなっていた。

 

通過チェック

「こりゃ間に合わんな」

レシートの打刻時間を見てぼやく。
通過チェックの参考クローズ時間は7:08。
現在時刻は10:55。
ざっくり計算で4時間遅れ。

PC5は130km先。
クローズ時間は18:46で残りは約7時間ちょい。
要求グロスは19km/h弱。
条件次第で達成できなくもないが、今は無理。
500km以上走って且つ2日間まともに寝ていない。
松阪400も中部400も眠気で1〜2時間超過した。
現時点でそれらのブルベよりクソ眠い。
とてもじゃないが間に合いそうにない。


「諦めるかな」

限界。もう寝たい。
SNSでぽろっとつぶやいた。
すると応援メッセージが矢継ぎ早に来た。
しくじった、そりゃそうなるわ。
応援されないように慌ててコメントを投稿する。

「もうがんばれって言わないで」
「眠すぎて気がついたら交差点の真ん中にいた」

この投稿は自分にとって逆効果だった。
皆メッセージを止めてくれた。
途端に押し寄せる、気遣いを強要した自責の念。
応援の仕方に注文つけるとか何様のつもりか。
己の情けなさに腹が立つ。
「こんなクソ野郎は徹底的に痛めつけなければならない」と、眠いし走りたくないのに自分を罰するモードに入ってしまった。

再びコンビニに入店。
ポケットに入るだけレッドブルと速攻元気を買い込む。


もう休まん。メシも食わん。
後で反動が来るだろうけど知らん。
ぼろぼろになるまで追い込んでPC5に行く。
その後の事はPC5以降に考える。

腹をくくって出発。

川を越えて姫路に到着。
姫路城を素通りする。
観光する余裕ナシ。
目が覚めている間に少しでも先に進みたい。
とにかくひたすら走りまくる。

……以降、しばらく記憶がない。

必死にもがいたせいか。
どこをどう走ったか、倉敷以上にまるで覚えていない。
気がついたときには他の参加者と合流していた。
(何がきっかけだったかマジで思い出せない)



「この先上りだけどすぐ終わるー」
「りょーかーい」
「元気出してこー」

ひとりは若い子。
ひとりは倉敷の快活クラブで少し会話した人。
そして自分。
3人で丹波を走る。

時間は相変わらずギリギリ。
間に合わない可能性の方が高い。
それでも気は楽だった。
人と走っていると眠くならない。
頭がクリアでめちゃ走りやすい。

「少し休憩しましょう」


先頭の若い子が言う。異議なし。
PC5まで休まないつもりでいたが、眠気がなくなり焦りや怒りが消えた。
なにより3人で走るのがすごく楽しい。
ここで別れる選択は全く無かった。

「疲れたー」

2人もかなり疲れている様子。
みな500km以上走っているのだから当然だ。
自分もコーラを買って休憩した。

「……あれ? 意外と上りが少ない??」

休憩中にサイコンを確認してふと気づく。
Rider750SEは登坂ポイントの一覧表示が可能。
それによるとPC5までの登坂ポイントは数か所だった。
区間距離は短く、平均勾配も獲得標高もユルい。
これなら。

「PC5、間に合うんじゃね?」

暗闇の中に一筋の光が差し込んできた。

明るい気持ちで走行再開。
デカンショ街道をペースよく走り続ける。
そういやD-309は踏めば走れる子だったわ。
すっかり忘れてた。

と、後ろから高速の2人組が登場。
信号待ちで少し会話する。
やはりギリギリとの認識。
彼らとも合流してPC5を目指すことにした。

……のだが。

この2人組、めっちゃ速い。

あまりの早さに若い子が千切れかけた。
(もう一人は足の痛みで早期離脱)
彼の後ろから様子をうかがう。
かなりしんどそう。
すかさず自分が前に出て牽引を試みる。
が、ずるずると下がっていく。
こりゃあかん。

「後続を待ちまーす」

信号待ちで先頭の2人組に伝えて別れる。

歩道に避けて待つこと数分。
若い子が到着。
もう一人も更に数分後に追いついた。
二人にレッドブルと速攻元気を渡して声をかける。

「PC5まであとちょっと。頑張ろう」

一番しんどい時間を支えあった。
できれば3人でPC5に間に合いたい。

走行再開。
下り坂の長い渋滞が登場。
トレインで走ると危ないのでバラける。

市街地に突入。
信号や渋滞が続く。
2人との再合流は難しそう。
仕方ないので一人でPCへ向かう。

国道9号に到着。
PCまであと1km。
はやる気持ちを抑えて緩い坂道を上る。

そして。

PC5に到着した。

 

(つづく)

 


なぜスタッフは試走して「この道でOK」と思ったのか