PC2〜長い夜
PCでは補給食を補充。
晩飯はすき家でとることにした。
胃が生きているうちは固形物を食べたい。
熊野から先は100km以上コンビニがない。
それに峠が多く、道の駅などの施設は少ない。
長い夜に備えるべくしっかり休憩した。
すき家を出ると、PC2の方向から一人の自転車乗りが現れた。
昼間に道の駅で出会ったブルベ参加者だった。
出会った時点で暑さによる消耗を訴えていた彼は、仮眠をはさみながら熊野まで走ってきたとのことだった。
眠気は今も継続しているらしい。
表情に疲労が滲んでいた。
昼の暑さに加え峠越えの疲れが出たのかもしれない。
ここから先はこれまで以上の難所が続く。
一人では危ないので、一緒に走ることにした。
獅子岩の前を通り過ぎる。(暗くて見えないけど)
海沿いの国道から山側に向かって曲がると、わずかにあった街の明かりはあっという間になくなった。
静かな道を一時間ほど走る。
前方に大きなトンネルが見えてきた。
風伝トンネルだ。
トンネルの手前に小さな脇道があった。
これから走る林道の入り口だ。
地図を見る。
そんなに長い林道ではなさそうだ。
が、峠の難易度は走ってみるまでわからない。
すき家の牛丼はまだ消化できていない。
エネルギー不足にならぬよう、自販機でジュースを買って飲み干す。
呼吸を整え、いざアタック。
風伝峠は地獄だった。
路面を覆う落ち葉、小枝、落石。
ガードレールや街灯はもちろんない。
なぜ試走してこの道でいいと思ったのか。
コース考案者を拷問しようと思った。
細心の注意を払いながら林道を上る。
しばらく進むと、あった。
妖怪ポスト……ではなくスタンプ台。
通過チェックのためブルベカードにスタンプを押す。
ごりごりに失敗。
再トライ。
もちろん悪化した。
これで認定がとれなかったらどうしよう。
一瞬悩んだが、修正できないので諦めた。
通過チェックを終えてしばらく走ると、道は下りに転じた。
相変わらず路面は荒れている。
注意しながら走ったが、大きな石を踏んでしまった。
まさかパンク!? ……無事なようだった。ほっ。
いつまた何かを踏んで転倒してもおかしくない。
転倒時に相手を巻き込まぬよう少し距離を取る。
路面を凝視。慎重に下り続ける。目バッキバキ。
林道が終わり、大通りに合流。まだまだ下る。
上った量より下ってる気がする。
だんだん傾斜が緩くなってきた。
そして。
長い長いダウンヒルがようやく終わった。
し、しんどかった……。
生きて峠を抜けた喜びを分かち合うため、後ろを振り返る。
そこに彼はいなかった。
(つづく)